かれこれ8年ほどカヅラカタを見続けひそかに応援してきた。休演になり鬱々とした日々をなんとかやり過ごし、宝塚歌劇を観ようとは到底思えない精神状態の時、よくコソコソとカヅラカタの公演を観に行っては元気を貰っていた。不思議と気分が晴れるのだった。

今回突然、そんなカヅラカタにダンス指導をさせて頂くことになった。え、私がダンスの指導。以前のブログにも書いたが私はダンスが苦手なのだ。退団後にまさか自分が誰かにダンスを教えることになるなど考えてもいなかった。どうしたものかと頭を抱え、カヅラカタOBの弟からも「お姉ちゃんがダンス指導なんて世も末だな」とか笑われながらも、必死でまずは基礎トレーニングのメニューを考えるところから始めた。私が大変お世話になったあるダンスの師匠の「ダンスは結局フィジカル(筋力)が大事」という教えに基き、私がコロナ引きこもり期間中に毎日続けていたら色々と効果を感じられた筋トレメニューを男の子達向けに改良して一緒にやることにした。在団中に受けた数々のダンスレッスンで習った自重トレを数種類抜粋して組み合わせた。カヅラカタはフィナーレ・パレードまで再現するのでロケットダンスもほぼ全員踊ることになる。ストレッチや脚上げのエクササイズを盛り込んだ、ダンス初心者が大半の男子高校生向け基礎トレーニングメニューを、過去に受けた数々のダンスレッスンの記憶を引っ張り出しながら作った。最初のうちは本当に緊張した。それらのエクササイズを団員達の前でひとつずつ説明しながらやって見せていく。きちんと説明した気になって、いざやらせてみると全然違うことをしたりする。なるほどこれでは伝わらなかったかと思って言い方を変えてみたり、悪い例をわざと大袈裟にやってみせたりしてなんとか伝えようとする。といった繰り返しをしながら、エクササイズの内容自体を少しずつ改善したりしてきた。公演のダンスナンバーも少しずつ見るようになった。そうこうするうちに日は経ち、通し稽古が入ってくる。初めての通し稽古を見た時、ダンスのお稽古ではいつも起きてるのか寝てるのかわからないような顔をしている子が、生き生きと別人のようにお芝居していたり、団員達の今までにはわからなかった面が見えてとても新鮮だった。通し稽古で全体を見渡すと、改善すべき点が見えてくるのでちょこちょこ指摘していく。そして更に本番が近づき、講堂に銀橋が出来、舞台装置が設置されていき、段々と講堂が本番仕様になっていく。自分が出るわけでもないのに妙にテンションが上がる。本番さながらに行うゲネプロでは、今まで何度も見てきた特にフィナーレのダンスナンバーが、衣装や照明がつくとこんな煌びやかになるのかと感動した。と同時に、普段から筋トレを真面目にやっている子は衣装を着て舞台に上がると、出で立ちに安定感がありカッコ良く見えるということが改めてわかったので、私もこれからも筋トレの習慣は続けていこうと思った。

それまでも何度も月組公演のOll for OneのDVDを見てきたが、ゲネプロを見てからさらに何度も見返した。ゲネプロを見ながら、カヅラカタでのこの場面はどうしてイマイチ盛り上がらないのだろうなどと疑問に思った場面の宝塚の映像を帰ってから見てみる。するとそれはちょっとした動きの違い、目線の違い、真ん中のお芝居に対する周りの反応の違いなど、すぐ改善できることだったりする。それらを細かく「ここはこういう場面だからこう反応した方がいいと思うよ」などと説明すると、皆すぐわかってくれて次の日には直る。男役と娘役のとあるやりとりに関して娘役の子に「この台詞はこういう意図だと思うからもう少し違う言い方にした方が面白いんじゃないかな」などと、女じゃないからわからないかと内心思いながら指摘したら、次の日には私が思った以上に私の意図を汲んだお芝居をしていて驚いたりもした。

まあ私がそんなふうに口を挟むのはほんの少しであり、基本的に団員達は自分達でどんどん考えて完成度を高めていく。特に最後の一、二週間の勢いは凄かった。普通に学校に通いながら毎日お稽古に明け暮れて相当疲れているだろうに、舞台の本番が近づくとやはりパワーがどこからか湧いてくるものなのだな。本番は朝5時から舞台化粧のお手伝いをし、二回公演とも観させて頂いた。皆の気合いの熱気で一日中暑かった。本番を観ながら、改めて舞台っていいなあと、カヅラカタっていいなあとつくづく思った。

カヅラカタには、宝塚の演目を男子中高生が演じるということから生まれる色々な魅力がある。しかし私が毎回見るたびに元気になるもうひとつの大きな理由は、舞台に立つことを純粋に楽しむ気持ちを思いださせてくれるということにある。私が言えることではないが、宝塚の公演はお客様からお金を頂き常に一定のクオリティの公演をお届けする必要があるので、当たって砕けろ!オー!みたいなノリで出来るものではない。宝塚に限らずなんでもそうだと思うけれど、どんなに好きなことでも仕事になったらただ純粋に楽しんではいられないものだろう。しかし原点は楽しむことにあったはず。部活動として、たった1日の本番に懸けて練習を重ね、宝塚の演目を生き生きと全力投球して演じている様子を見ていると、なぜ自分が宝塚を目指したのかといったことが思い出され初心に帰るようなそんな気がするのだ。

そんなカヅラカタに関わらせて頂けてとても楽しかった。物凄く大変そうだけどつくづく面白い部活だと思う。沢山の学びとパワーをありがとうございました。