カヅラカタ秋公演「ファントム」無事終了。今回ほど期待を超えた公演はない。ここまで感動させてくれるのかと、この公演を生で観劇できたこと自体がとんでもない幸運だと思った。

本番1週間前の日曜日のゲネプロ終了後、久田先生が、クリスティーヌがエリックの顔を見て叫んで逃げる場面について、クリスティーヌ役の池田君に「池田、お前はエリックにどれだけひどいことをしたのかわかってるのか、エリックが絶対に見せたくないと拒んでいるのを説得して信用させて、この人なら受け入れてくれるとエリックの気持ちを最高に上げておいてから、どん底に突き落としたんだぞ。その落とし前をどうやってつける気だ。」と仰った。これを導入に、主に2幕後半のお芝居についての、久田先生と団員による話し合いが始まった。全部書き起こすわけにはいかないのだが、この会が作品の仕上がりに大きな影響を与えている。私は本番を観ているとき、エリックは最終的にキャリエールとクリスティーヌによって救われたように感じた。

そのディスカッションはだんだん作品のテーマに関わる話題にまで及んだのだが、そのとき真っ向からしっかり自分の意見を持って久田先生と最も議論を交わしていたのは、団長の栢木君だった。彼の主張は一貫して、いかにも宝塚好きだからこそ持てる意見だった。男の子だから宝塚に入れないため、神戸から東海中学まで来て五年間カヅラカタで頑張ってきた栢木君に対して私はこのとき、やはりこの子は伊達に宝塚を見てないんだなと思った。事情により高二の最後の秋公演で本編に出ることができなかったのはとても残念だし本人も不本意であったと思うけれども、めげずに最後までカヅラカタに携わってくれてよかった。

そして、ゲネプロで誰も文句のつけようがなかったのが、エリック役の山下君だ。彼は秋公演のお稽古が始まってすぐ原作の小説を読破し、この小説を原作とする他の舞台や映画や他の組の公演映像などをかき集めてお芝居を研究し、何曲もある歌やダンスナンバーを早い段階から計画的に練習するなど最初からたいへん熱心なのが目に見えてわかった。本番3週間前の通し稽古の時点でほぼ完成されており、そこからさらに作り込んでいった。この公演の成功はやはり、彼の役に対するたゆまぬ探究心と地道な努力によるものが大きな割合を占めると私は思う。中1のときから5年間、重要な脇役をたくさん演じて積み重ねてきた経験値が、最後に主役としていかんなく発揮されたことを大変嬉しく思う。それと、リフトがとても上手なので(本人曰く、毎日猫を抱っこしているからだそうだ 我が家と同じく茶トラ男子を溺愛している)デュエットダンスにリフトがあってよかった。

本番は、彼らの熱く真っ直ぐなお芝居に、純粋に心を動かされている自分がいた。考える力に長けている上に本番に強い男子高校生たちの底力に対して私は、自分の理解の範疇を超えるものへの恐れすら感じた。

最初から最後まで宝塚の公演の映像の通りに真似をする。それだけでも相当大変なことだ。しかしそれだけでは、ここまで心に響く舞台にはならないだろう。
宝塚をできる限り模倣した上で、それぞれが自分の役をどこまで深く掘り下げられるのか。そこにカヅラカタならではの魅力がある。今回の公演はそれを顕著に感じた公演だった。

指導する立場として携わって5年になるが、改めて、こんな素敵な部活に携われて本当に幸せだと心底思う。これからも、彼らが持てる力を最大限活かせるよう工夫を続けながら指導していきたい。