今年の春の新人公演「EXICITER!!」本番数日前の舞台稽古で、秋の本公演の演目が「ポーの一族」であることを知った。その時は正直、本番でここまでの感動を味わえるとは思っていなかった。いまだ興奮冷めやらぬ状態ではあるが、だいぶ、だいぶ落ち着いてきたので、今回の公演のお稽古を振り返ってみたいと思う。

まずダンスに関して。私は2020年秋の本公演「All for One」から、カヅラカタ歌劇団でダンスを指導させて頂いている。お稽古が始まってすぐの時期は基礎練習を行っている。その練習内容に関しては、本番の公演が終わるごとに少しずつメニュー改善を行い、次回の公演がより良いものになるようにと工夫している。本公演の演目が決まり、「ポーの一族」花組公演の映像を初めて見た時、耽美的な世界観を作ることがまず重要だと感じ、舞台上における立ち姿の改善をしたいと思った。そこで今回のお稽古では、基礎練習メニューに「歩く練習」を加えた。宝塚音楽学校のダンスのレッスンで、スローテンポの曲に合わせてただただ綺麗に丁寧に歩くというだけのエクササイズが毎週あったのを思い出し、とても地味なのだがそれを取り入れてみた。もちろん実際に舞台上で歩くとき役柄や曲の雰囲気に合わせて歩き方は変わるけれど、いちばんシンプルな形を知った上で崩すのと、最初から崩したところに向かうのとでは美しさが違う。

また、前回の公演で歌唱指導の先生がお辞めになり、今回の公演から歌唱指導も担当させていただくことになった。ダンスの指導はこれで5作品目となるが、歌の指導は初めてなのでまた一から手探り状態で進めていかなければならなかった。まず、中1から高2の生徒がおり、声変わりがあるのでみんな音域がぜんぜん違う。変声期について調べてみると、どうも変声期というのは少年たちにとってかなりセンシティブな事柄らしい。確かに、突然今までの声が出なくなって音域が非常に狭くなった後、今までとぜんぜん違う声になるというのはそれだけでショッキングな出来事だと思う。また、変声期に無理に出ない声を出そうとしたりすると、その後一生使う変声期後の声に影響を及ぼす可能性がある。自分の何気ない一言で彼らの繊細なハートを傷つけないように相当気を使う必要がある。しかしレベルアップも図りたい。と、この年齢層の男の子たちの歌を指導するのは大変なのだと、指導を担当して初めてわかった。前任の先生には頭が下がる。これからも色々試行錯誤していく所存。

また、歌い方に関して、私は前からずっと気になっていた、カヅラカタ節と心の中で呼んでいる(いた)、カヅラカタ団員達特有の癖を直したいと思った。なぜか毎年、文字で書き表すのはなかなか難しいのだが、音が変わる直前に次の音より少し低い音で歌ってからずり上げる、という独特の節を付けて歌う子が多かった。これをすると声も出しにくいし表現の幅も狭まるし、なによりコーラスが揃わない。しかしあまりにもそう歌う子が多いのでどうしてもその節を付けることにこだわりがあるのかと思い、「私はやめたほうがいいと思うけど、どうしてもそう歌わないと格好がつかないと思うのならソロのときは好きにしたらいいよ」と言っていたのだが、案外みんなあっさりやめ、シンプルに歌えるようになった。素直。

そして今回、天真みちるさんが8月と10月の計4日間、どの日も朝から夜まで、みっちりご指導してくださったこと。これは団員達にとって非常に学びの多い時間であったのはもちろんだが、私にとっても、大変勉強させていただく機会となった。男役の方ならではの様々なテクニックや、男役娘役に限らず宝塚で沢山のご経験を積まれた故のお芝居の作り方などなど、団員達と一緒に自分も少しでも吸収しようと天真さんに張り付いてご指導の様子を拝見した。それらの技術が一朝一夕で身につくものではないことはわかり切っているが、今後の指導に少しでも役立てるために必死で聞いた。

しかし私が驚いたことは、天真さんが、私が知らないことを沢山知っていらっしゃった、身につけていらっしゃったということだけではないのである。

天真さんがいらっしゃるより前のお稽古で、私はある場面のある振りに関して、ここはこうした方がいいと指導したがあまり変わらなかった点があった。そのときは、この子たちにそこまで要求するのは無茶だったかなと思っていた。しかし、天真さんもやはりそこが気になられて、一言二言、私とは違う言い方でアドバイスをなさったらすぐに改善された。その様子を目の当たりにして私は、教えても変わらないのは教えられる側ではなく教える側の教え方に問題があるのだとわかった。天真さんは宝塚歌劇団の自主稽古で相当演技指導をなさっているだろうし、現在ご自身の劇団をお持ちでいらっしゃるし、演技指導の高いスキルもお持ちなのだ。そして彼らが、良い指導があればこんなに変われる、私の想像以上のポテンシャルを持っていることにも気づくことができてよかった。お忙しい中お越しいただけて本当にありがたい。私にも気さくにお話してくださり、誰に対してもとても物腰が柔らかくお優しい方で、こうしてご一緒できたことを大変嬉しく思っている。次回は私が山本屋にお連れするのでぜひまたお立ち寄りいただきたい。

そしてだんだんと本番が近づき、基礎練習より場面指導がメインになっていく。さらに本番直前の時期になると通し稽古が何度も行われるようになり、公演が形になってくる。通し稽古を重ねるうちにひとりひとりが役に対する理解を深め、進行上のトラブルもなくなっていき、本番数日前のオケ合わせではある1点を除いてこれで本番を迎えられるな、という状態になった。

(カヅラカタ秋の本公演「ポーの一族」感想2/2へ続く)