カヅラカタの指導に入らせていただいて今回で6作品目、ショーの指導は2作品目になる。昨年春の「EXCITER!!」まではダンス指導のみ担当していたため、ショーの歌唱指導は本作品が初めてである。

昨年末に、顧問の先生から今回の演目が2017年雪組「SUPER BOYAGER!」であることをお聞きした。そのときほど、ああ休演にならなければよかったと思ったことはないが、今まで指導してきたどの演目も出演していないわけだしお稽古が始まってしまえば別段どうということはない。そんな昔の自分に対する個人的感情など、カヅラカタ団員達、特になんだかクセの強い今期のメンバーと対峙していれば吹っ飛んでしまうのだ。

初めてショーの歌唱指導をさせていただいたので、それについて書こうと思う。彼らは、恋愛チックな甘い歌詞の歌は水を得た魚のようにノリノリで好きなように格好つけて歌うので、大して何も言うことはない。問題は、本公演でそのタカラジェンヌが歌うことに意味がある歌詞の歌であった。そういった歌をカヅラカタver.ではどのように歌うべきか。「SUPER BOYAGER!!」は、沙央くらまさんがご卒業された公演であり、そして望海風斗さんのトップお披露目公演であった。私には、沙央さんが真っ白い衣装で「SAYLING DAY 旅立ちのとき~」と銀橋で歌われたらそれはもうご自身のご卒業についての歌としか思えないし、望海さんの「いつしか私は花園で歌い踊っていた 雪に凍えた朝もあった (中略) 暗闇の向こうには光が見えると信じて ひたすらに坂道を駆け上がりそして登り詰めた」という歌詞は、花組から雪組に組替えしご苦労を重ねてトップになられたということを歌われた歌にしか聞こえない。もちろんそういうつもりで書かれた歌詞に決まっているのだが、これらの曲をカヅラカタver.で歌うとなると、私自身がその固定観念を崩す必要があった。

私は予定が合わず参加できなかったため、このことについてほとんど言及できずとても残念であるが、3月のある日に御園座公演の合間を縫って望海さんが綾凰華さんとカヅラカタのお稽古に来てくださった。後から聞いたところによるとそのとき、上記の望海さんの歌について望海さんは「自分の解釈で歌えばいいよ」と仰ってくださったそうである。

考えてみると、先ほど挙げた歌詞は「卒業」とも「花組」とも「雪組」とも書かれていないわけで、「ご卒業される歌だ」とか「組替えで色々大変だった」などと解釈するのは聴いている側なのだ。歌詞に描かれているのは「旅立ち」「花園」「雪」などといった比喩表現であって、極端に言ってしまえば、何を思って歌っていらっしゃるのかはご本人のみぞ知る。

お芝居の中での歌であれば、その役がそのときどういう心境かということなどを通してどう歌うか考えるけれども、ショーの中の先ほどから述べているタイプの歌は、そういった役がない。
この指導が正しいかどうかわからないけれども、私はまず自分の、この曲はこういうことを歌った歌であるという思い込みを一旦外した。そして、歌う子達がカヅラカタにおいて現在どのような状況にあるかをふまえて、それぞれがそれらの歌を「自分のこと」として歌うように指導した。彼らは本番直前までいろいろ考え試行錯誤していた。

春の新人公演は、昨年のブログで書いたように秋の本公演のオーディションの一環でもあると思う。それと同時に、指導する側が秋の本公演に向けてその期の特性に応じた指導の見通しを立てる機会でもあると今回思った。もちろん秋公演で団員は増える(増えてほしい切実に)が、その期の特性は、引っ張っていく古参の高二の子達でだいたい決まる。先ほどもチラッと書いたが、この公演のお稽古を通して感じた今期の印象は「クセが強い」。初めて今回の通し稽古をご覧になったときの天真みちるさんのお言葉をお借りすれば、「それぞれが独自の世界観を持っている」。まさに仰る通りだと私も思う。個性的で、こだわりが強く、アツい。そのアツさの種類がてんでばらばら、という感じでとても面白いメンバーである。

今回の演目は正直、自分が最高に病んでいたときのことを思い出すので最初のうちは映像もまるで見る気が起きなかった。しかし、お稽古が進むにつれ、カヅラカタver.を必死で作り上げていく彼らの熱にのまれて私もいつの間にかいつものようにのめり込んでいた。そして、本番の公演を見ながら、良いショーだなあと思い、そういえば休演してたんだったなと他人事のように思い出した。もとから望海さんのお披露目のめでたい明るいショーであって、自分が勝手にヴェールをかけていただけだ。それを荒療治で剥がしてくれたカヅラカタ21期の皆様に改めて感謝である。

そして、秋の本公演はとても好きな演目「エリザベート」であり、今から楽しみである。

今回の春公演を見ながら、ソロに気を取られてコーラスを生徒任せにしすぎたことを反省した。また、前回の秋公演「ポーの一族」で、台詞が聞こえにくい箇所が多々あり、マイクが回らない子が変声期真っ只中の中学生だったりするので難しい面もあるのだが、「エリザベート」ではなんとか改善したいと思っている。

彼らの個性が最大限発揮されるよう、慎重に指導していきたい。