宝塚音楽学校創立110周年記念式典に参加した。宝塚歌劇団を卒業後初めて、約5年ぶりに大劇場の客席に座った。久しぶりの大劇場はつくづく広く、また知っているどの劇場よりも客席の座り心地が良い。到着してそれぞれの指定された席についてみると、私達99期生の座席は二階席のかなり後ろで、一階席の様子は見えないが、どうやら学年順に一階席の前方の席から指定されているらしい。ぱっと見の目算であるが、学年が上がるにつれて参加者が多くなっている印象である。私の期の参加人数は一桁で、私の知る限りでは下級生の参加者はかなり少ない。そもそもOGの人数がまだ少ないから当然である。

 ロビーも客席も、パワフルな宝塚OGの上級生の方々でいっぱい。まずは同期同士で「久しぶりー!」と盛り上がる。それからそれぞれに縦の繋がりが沢山おありなので学年をまたいで会うために千何百人のOGの方々が右往左往しており、もちろん同期も私もそのひとりで、お世話になった上級生の方々へのご挨拶に歩き回った。式典のブザーが鳴っても盛り上がりすぎて気が付かないのか喋り足りないかでなかなか誰も席につかず、客電が消えてから慌てて自分の席へ戻ろうとするといった様子で大変賑やかである。

 式典は、舞台上で歴代のスターの方々が宝塚音楽学校の思い出を語ってくださったり、現音楽学校生が祝舞や合唱を披露してくれたりして、音楽学校時代を懐かしんだ。また、この式典は創設者小林一三先生の生誕150周年記念でもあるから、先生について研究しておられる有識者の方々の対談や宝塚歌劇団の歴史の映像等を通して、小林一三先生の功績や精神を再確認した。

 出席すると決めたものの、在団中あまりにうまくいかなかったので、劇団に久しぶりに行くというのはやはり気が重かった。しかし、以前どこかで書いたように私が子供の頃は娯楽といえば全て宝塚であり、小さい時から宝塚に入ることしか考えていなかった。そんな自分がこの式典に参加したことは、もう一度原点に立ち返り自分を見つめ直す大きな機会となり、出席して大正解だった。

 私が、以前お世話になった方々(上級生の方々、そして同期や下級生も)にご挨拶させていただくたび、皆さま「元気そうでよかった」と温かくお話してくださって、単純に、本当に嬉しかった。

 もっと頼ればよかった。自分の思いをもっと表現して話をしようとすればよかった。いつだって、心を閉ざしていたのは自分だった。在団中、いったい何人の方々が私に手を差し伸べてくれただろうか。そして私は、当時そうせざるを得ない精神状態であって今更どうしようもないのだが、それらの殆どを拒絶し、裏切り、傷つけてきた。にもかかわらず、ただただ「元気そうでよかった」と温かい眼差しを向けてくださる皆様の懐の深さに、心底感謝し、感服するばかりである。

この式典に参加したことで、宝塚歌劇団の根底に流れる愛みたいなもの、いや、たぶん愛、に改めて気が付いた。芸能界というのがどんなオソロシイところなのか、私は足を踏み入れたことがないから実際のところはわからないけれども、宝塚歌劇団は芸能界とは一線を画す独特の世界で、永遠に同化することはない。と私は信じている。お会いしたこともなければ同じ時代に生きてもいないけれど、創設者である小林一三先生の、宝塚歌劇団および宝塚音楽学校に対する愛は生誕150年という今でも確かに息づいていると感じる。そしてそれが、私が宝塚歌劇団をどうしても嫌いになんかなれない、というか、なにがあってもやっぱり好きでしかいられない所以なのだ。こうして約110年間連綿と続いてきた宝塚歌劇団の一員になれたことを、改めて幸せだと思う。