朗読劇「満ちる」お陰様で無事終演しました。

私はピアノで音響を担当させていただきました。初めてのピアノのお仕事で、四苦八苦しながらどうにか乗り切ったという感じですが、終わってしまうとなんだか寂しいです。

思い返すと宝塚歌劇団の公演のお稽古では、確かいつも演出助手のいちばん新入りの方が音響を担当されていて、数えきれないほどの効果音をパソコンを使って鳴らしていらっしゃいました。お稽古中にその方が効果音のタイミングをほんの0.何秒間違えて先輩の演出助手に怒られる、という現場をしばしば見た覚えがあります。また、お稽古ピアニストの方が劇中のBGMの入りや切りや転調するタイミングなどの、これまた微妙な違いによって、演出家の先生に——言葉を選ばずに言えば——キレられるといった場面も何度か見ました。単純にミスなのか、そもそも演出家と意思の疎通がうまくいっていなかったのかは私にはわかりません。いずれにしろ演出助手やお稽古ピアニストの方々からすればそれはスタッフとしての膨大な役割のなかのほんの一つですから、誰でもそのくらいのミスはあるでしょう。しかしそのたったひとつで場面が台無しになることが大いにあり得るので、演出家は神経質になるのだと思います。そのように、舞台における「音」が作品を生かしも殺しもする重大なものだということを宝塚のお稽古場で感じていたので、それだけ大事な役割を任せていただけたことがありがたかったです。

とはいえ、私はピアノが得意なわけではないので不安だらけでした。

大学時代にお世話になった、ピアノと作曲の恩師が、猛練習すれば私でもギリギリ弾けるレベルの音数でとても素敵な曲の数々を書いてくださいました。また、演劇の中でピアノを演奏するときの作法を一から教えてくださり、お陰様でどうにか役目を果たせました。本当に感謝しております。

また、私、人前で弾き語りするのも初めてでした。美空ひばりさんの名曲のひとつ「私は街の子」を、主人公満ちるとその父健一の思い出の中の曲として演奏しました。

弾き語りといえば思い出すのが、宝塚在団中、私は東京公演のときに下北沢へ演劇を観に行くのが好きでした。6年ほど前に、鴻上尚史さん作・演出の「ベター・ハーフ」というお芝居を本多劇場で当日券を並んで観たことがあります。その劇中で中村中さんが「サン・トワ・マミー」を弾き語りされていたのが素晴らしく、感動的な演出効果になっていて号泣しました。その帰り道にぼんやり「自分の歌がこういうふうに劇中で使ってもらえたらいいなあ」と思ったのですが、佃先生が今回まさにそのような機会を与えてくださって、生きていれば思いもよらないときに良いことがあるものだなあと思う次第です。

本番当日、人前でのピアノの演奏に慣れていなさすぎて、指が時々動かなくなりそうでどうしようかと思いました。しかし、ミスしないようにということだけ考えているから指が固まるのではと途中で思いつき、お芝居の流れに身を任せるような気持ちで演奏するようにしたら楽しくなり、練習した通りに落ち着いて弾くことができるようになりました。

名古屋を代表する劇作家・俳優でいらっしゃる佃典彦先生演出のお芝居に関わらせていただけて光栄でした。大変学びの多い時間でした。
温かく迎えてくださった、佃典彦先生、劇団BB☆GOLDの皆様、客演の皆様、スタッフの皆様、そして会場にお越しくださったお客様、本当にありがとうございました。

次は、10月7日のカヅラカタ歌劇団秋公演「エリザベート」のお稽古が大詰めになってきます。カヅラカタで4回目の「エリザベート」。素晴らしい作品になるよう、「満ちる」での学びも活かしながら指導頑張ります。